氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 リーゼロッテの愛らしい顔をみつめながら、アデライーデは以前、王城で読んだ調書を思い出した。
 王城で異形の者たちが騒ぎを起こした日、リーゼロッテの聖女の力が解放された。その日、王城に残っていた者たちは、抱えていた慢性的な体調不良が改善したという報告が山ほど乗っていたのだ。
 ふと気づくとリーゼロッテのエメラルドのような緑の瞳が、アデライーデの青い瞳を食い入るようにじっと見つめている。

「……アデライーデお姉様……とっても綺麗……」

 うっとりと目を細めて微笑むリーゼロッテに、今度はアデライーデが頬を赤らめた。

「何なの、この()! ヴァルトにあげるのはもったいなさすぎる!」

 再びリーゼロッテを胸に抱きしめながら、アデライーデは心の中で白旗(しろはた)を上げていた。

(これじゃあ、あの他人に(きび)しいエマニュエルも懐柔(かいじゅう)されるわけだわ……)

 リーゼロッテが苦境(くきょう)に立たされたとき、手を()()べずにいられる者がどれだけいるだろう。
 夜会などもう二度と出るものか。ずっとそう心に決めていたのだが、今回、白の夜会への出席が不可避(ふかひ)なものとなってから、アデライーデは憂鬱(ゆううつ)な日々を送っていた。

 それなのにリーゼロッテのためなら、自分のちっぽけなプライドなど些細(ささい)なことだと思えてくるから不思議なものだ。
 リーゼロッテはただ微笑んでいればいい。
 甘やかすばかりではいけないと頭では分かっているのに、周囲が全力で守ろうとしてしまう。

「とんだ人たらしね」

 もう一度その頬をするりとなでて、アデライーデは仕方ないといった風に微笑んだ。



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