氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 白の夜会では、曲のレパートリーは比較的簡単に踊れる三曲だけになっている。何しろ人生初の舞踏会、それも王族をはじめほとんどの貴族が出席する国内最大級の夜会だ。緊張するなという方が無理なため、舞踏会初心者のデビュタントのために、できるだけ踊りやすい曲目(きょくもく)がチョイスされていた。

 ファーストダンスで踊るメヌエットは、ゆったりした曲調で単純なステップが繰り返されるので、ダンスが苦手な者でもなんとか(さま)になる。他の二曲は軽快なワルツで、少し複雑なステップが組み合わさる中級者向けの曲目だ。己の力量(りきりょう)に合わせてステップを簡略化(かんりゃくか)させることもできるので、無難(ぶなん)に踊れる選曲となっていた。

 リーゼロッテは三曲とも一通り踊ることはできるのだが、いかんせん体力が続かない。深窓(しんそう)の令嬢生活は伊達(だて)ではなかった。

(これからは体力づくりをしないとダメそうだわ……)

 人前で息切れるなど淑女としてはアウトだろう。乱れた呼吸を整えようと、リーゼロッテは何度か大きく深呼吸した。

「大丈夫よ。あなたにはヴァルトがいるから、何曲も踊ることもないだろうし」

 婚約者のいる者は、親族とのファーストダンスを終えたら、婚約者以外の人間とは踊らないことが多い。結婚相手を探している令息・令嬢は、積極的に多くの人間と踊るものだが、リーゼロッテには無用の事だった。

(ジークヴァルトが他の男とのダンスを許すとも思えないし)

 紅潮(こうちょう)した(ほお)がおいしそうだわ、などとリーゼロッテをみやっていたその時、入口の扉がばぁんと乱暴に開け放たれた。

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