氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 この笑顔を守るためには、自分がそばにいてはいけない。

 そう決意し、意識して距離を置くようになってから、彼女は悲しそうな顔をするようになった。自分が距離をとろうとすればするほど、それは顕著(けんちょ)になっていく。

 その事実に気づくと、今度は居ても立っても居られないような、どうしようもない気持ちに(おそ)われた。挙句(あげく)の果てには、無防備(むぼうび)なその体に触れようと、無意識のままこの手が伸びている始末だ。

 そんなとき、彼女は言った。あーんは毎日のノルマなのだと。
 それは、自分から手を伸ばし、彼女に近づいてもいいのだと、そう許されたような気がして――
 その時にまた、自分でもよくわからない(かたまり)が、この胸の奥に生まれ、大きくはじけた。

 (ほか)でもない彼女が、この自分がそばに()ることを望むなら。
(――自分はソレを無理やりにでも押し殺すしかない)

 ソレの正体が一体何なのか、ジークヴァルトにもわからない。
 だが、彼女を、リーゼロッテをその(かたわ)らにあって守るには、それ以外に選択肢は見いだせなかった。

 異形の者たちはいいパラメーターだ。やつらに気取(けど)られないほど完璧に、この衝動(しょうどう)を抑えてみせよう。それは苦行(くぎょう)のようでいて、心躍(こころおど)るような高揚感(こうようかん)もあった。

(オレはすでに狂っているのかもしれない)
 腕の中にいるリーゼロッテを見下ろしながら、ジークヴァルトは他人ごとのように思う。

 誰よりも近く、誰よりも遠く――

 その矛盾(むじゅん)こそが、ジークヴァルトの行き着いた唯一(ゆいいつ)の答えだった。

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