氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 お膳立(ぜんだ)てならいくらでもできる。ジークヴァルトのスケジュール管理をしている自分なら、最大限の働きができるだろう。最終的にはジークヴァルトの手腕(しゅわん)にかかっているのが不安だが、そこはそれマテアスにはどうすることもできない。

 それにリーゼロッテと過ごす時間を増やすということは、すなわちその分ジークヴァルトの執務時間(しつむじかん)が減るということである。そのしわ寄せを食うのは、ほかでもないこの自分であるのだが。

(ヴァルト様が本懐(ほんかい)を遂げるその日まで、このマテアス、馬車馬(ばしゃうま)のように働かせていただきましょう)

 きらりと丸眼鏡を光らせて、マテアスは頼りない主の背中にエールを送った。

(なんにせよ、頑張れ旦那様……!)
 公爵家で絶賛流行中のフレーズを胸中でつぶやきつつ、マテアスは執務机に座り仕事にとりかかった。

 書類の束に手を伸ばしていると、ジークヴァルトがじっとマテアスの方を見ていることに気づく。いきなり放置されて困っているようだ。

(まったく、世話の焼ける……)

 お膳立て以降のことは自力でやってもらわないと困るというのに、リーゼロッテのことになると途端(とたん)に判断能力が欠如(けつじょ)するらしい。領地経営でのジークヴァルトの決断の速さと的確さは、マテアスですらいつも舌を巻く。この落差(らくさ)は一体何なのだろう。

 はぁと小さくため息をついてから、マテアスはあーんと口元に何かを入れようとする仕草(しぐさ)をした。

 それを見たジークヴァルトの眉根(まゆね)がぴくりと寄せられ、それからテーブルの上の菓子に視線を移した。
 クッキー・キャンディ・チョコレートといろいろ並べられている中で、見慣れないカラフルな四角い菓子が目に入る。(となり)を見やると、リーゼロッテもその菓子をじっと見つめていた。

 ジークヴァルトは手を伸ばしてその菓子を一つ()まみ取ると、「あーん」とリーゼロッテの口元に差し出した。
 一瞬戸惑(とまど)うような仕草(しぐさ)をしたが、リーゼロッテが素直に口を開けたので、ジークヴァルトはそっとその菓子を差し入れた。

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