氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「でしたら、これからは旦那様用に酸っぱくも甘くもない物をご用意いたしましょう。ですので、リーゼロッテ様はこれからも心置きなく旦那様にあーんをなさってくださいね」
「えっ!?」
「旦那様には一日一回と言わず、何度してもかまいませんから」
「え? いえ、そんな失礼なことは……」
「何をおっしゃいます。失礼だなんて、ねえ、旦那様?」

 ふたりの視線が自分に集まると、ジークヴァルトはふいと顔をそらした。

「ほら、やはりヴァルト様は嫌がっておいでのようだから……」
「……別に、嫌ではない」

 不服そうな声音のくせにジークヴァルトはそう返した。

 リーゼロッテは小さな口をぽかんと開けたあと、困ったように口元をへの字に曲げた。こんなつもりじゃなかった、顔にそう書いてある。

 あーんは一日一往復(それ以上ももちろん可)。公爵家に新たな(ちん)ルールが誕生した瞬間だった。

「旦那様、そんなことより、リーゼロッテ様ときちんとご相談なさってくださいね」
 マテアスはそれだけ言うと、再び執務机へと戻っていった。

「相談ですか……?」
 リーゼロッテが不安げにこちらを見上げてくる。

「ああ、王城からの視察も終わったからな。ダーミッシュ嬢を領地に帰したいんだが、エマニュエルは所用で不在だ。今、誰も付き()える者がいない」
「まあ、いつも気を使わせて申し訳ありません」
「来週になればエマも戻ってくるが、ダーミッシュ嬢もデビューの準備で何かと忙しいだろう?」
「そうですわね……」

 白の夜会までもう三週間を切っている。マダム・クノスペがドレスを作り直すと言っていたので、領地へはできるだけ早く戻った方がいいだろう。リーゼロッテは困ったように首を傾けた。

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