氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「カークが馬車の上に乗っても問題ありませんわよね?」

 リーゼロッテが(うかが)うように隣を見上げると、「ああ」とジークヴァルトはそっけなく返した。

「ふふ、カークは振り落とされないように気をつけてね?」

 その言葉に再びカークはこくこくと頷き、いそいそと馬車の上によじ登りはじめた。そのまま屋根の上であぐらをかいて座ったかと思うと、その姿勢でぴたりと静止し動かなくなる。

「視える人が視たら驚いてしまいそうね」

 リーゼロッテが苦笑いすると、ヨハンが増々恐縮(きょうしゅく)したように身を縮こまらせた。その様子にエーミールが不満そうに顔をしかめる。

「ジークヴァルト様、このような異形を連れて行くのは賛成いたしかねます」
「問題ない。これの見たものはオレにも届く」

 にべもなくそう言われてしまえば、エーミールは引き下がるしかない。カークとついでにヨハンを(にら)みつけながら、「そういうことでしたら」と不承(ふしょう)不承(ぶしょう)(てい)で頷いた。

 ジークヴァルトはリーゼロッテに向き直ると、するりとその髪をなでた。からめた指の間からサラサラとこぼれる髪を無表情でみつめながら、何度もするりするりと()いていく。

名残(なごり)()しいとは存じますが、そろそろ出発いたしませんと、あちらへ到着するのが遅れてしまいますな」

 終わりの見えないジークヴァルトの行為に、エッカルトが後ろからすまなそうに声をかけた。ジークヴァルトははっとして、慌てたように手を引っ込めた。

「今も無意識でございましたか?」
「……ああ」

 ふいと顔をそらすと、ジークヴァルトは周りにいた使用人に目くばせを送って馬車の扉を開けさせた。

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