氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 リーゼロッテはジークヴァルトに手をとられ馬車へと乗り込み、そのあとにベッティが続いてリーゼロッテの向かいに座った。
 見送られながら馬車は軽やかに走り出す。

 なんだか朝から()(づか)れしてしまった。流れる景色をぼんやりと(なが)めながら、リーゼロッテは小さく息をついた。

「お疲れのご様子ですねぇ? 到着まで少しお眠りになられますかぁ?」
「ありがとう、ベッティ。でも大丈夫よ」

「それにしても、あの異形がこの上に乗ってるなんて驚きですねぇ」
 ベッティが上を見上げながら言うと、リーゼロッテはふふっと笑った。

「そうね。どうりで馬車から見てもみつからないはずだわ。……ベッティは異形の者が視えるのね?」

 公爵家にいると、大概(たいがい)の者は異形が視えるので、感覚が麻痺してしまいそうだ。ダーミッシュ領に帰れば視えない者しかいないので、言動に注意しないと気がふれたと思われかねない。

「はいぃ。わたしは弱いながらも異形を追い払うくらいはできますのでぇ。おかげでこうしてリーゼロッテ様のお共に(だい)抜擢(ばってき)ですぅ」
「そうだったのね。ベッティは公爵家に来て日が浅いのに、慣れた頃にまた場所が変わってはやりづらいでしょう?」
「とんでもございませんよぅ。エラ様にもお会いできますしぃ、ダーミッシュ伯爵家の方々は無知なる者でいらっしゃると聞いていますのでぇ、今からお目にかかれるのが楽しみでぇ」
「まあ。ベッティは無知なる者のことまで知っているのね」
「あぁうぅんとぉ、うわさ……うわさですぅ。わたし、あちこちのお屋敷にお邪魔してきた経験がありますのでぇ、どこでだったか、そんなうわさを耳にしたんですぅ」

 ベッティの少し慌てた様子が気になりつつも、リーゼロッテは「そうなのね」と深くは追及(ついきゅう)しなかった。

 白の夜会までもう二十日もない。今から帰って新しいドレスを仕立てたり、いろいろと忙しくなるのだろう。

 ジークヴァルトのために刺しているハンカチの刺繍(ししゅう)も、あと一息で完成しそうだ。計画ではとっくに渡せているはずだったのだが、ここのところいろいろとありすぎて、刺繍どころではなかった気がする。

< 161 / 684 >

この作品をシェア

pagetop