氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 リーゼロッテが再び小さく息をつくと、ニコニコ顔のベッティがからかうように口を開いた。

「旦那様の溺愛(できあい)が重すぎですかぁ?」
「溺愛……なのかしら? 大切にしていただいているとは思うけれど……」

 ジークヴァルトのあれはやはり子ども(あつか)いに思える。以前のように触れてこなくなったのは、ジークハルトの一件のせいだ。
 子供だと思っていた相手を、自分の意志とは関係なく無理やり押し倒してしまったのだ。気まずくもなるし良心が痛むのも当然だろう。

「ベッティがみましたところぉ、旦那様は(いち)(ゆる)すと(じゅう)まで()み込んでくるタイプのようですのでぇ、(いや)なことは(いや)ときっちりはっきりおっしゃった方が御身(おんみ)のためですよぉ」
「一を許すと十まで……」

 リーゼロッテは唇を引き結んだ。思い当たるふしがないでもない。
 一日一回がノルマのあーんは、なぜだか節操(せっそう)なく回数が増えている。頭をなでるのも嫌ではないと確かに言ったが、ジークヴァルトのことだ。もしかしたら、今後は(まえ)以上(いじょう)頻度(ひんど)が増えるのではないだろうか。

案外(あんがい)、頭をなでるのも、わたしがもっとやってほしいと思ってるって、誤解していたり……?)

 なでられるのは嫌ではないと言ったが、もっとなでてほしいとは言ってない。だが、ジークヴァルトは妙に律儀(りちぎ)なところがある。

 王子の(めい)で王城にとどまった時も、王命でリーゼロッテの護衛に関わった時も、真夜中まで見回りをしたり、多忙な中、毎日連絡をくれたり、そこまでしなくていいのではと思える働きぶりだった。

 もしも、リーゼロッテがもっとかまってほしいとねだったなら、休む時間を削ってまで責任を果たそうとするのではないか。

「そうですよぉ。殿方(とのがた)をうまくしつけるのも淑女(しゅくじょ)のたしなみですよぅ。それには、初めが肝心(かんじん)なんですぅ」
「そ、そう……ありがとう、心に()めておくわ」

 (はた)から見るとジークヴァルトのあれは婚約者への執着(しゅうちゃく)に見えるらしい。しかし当事者(とうじしゃ)に言わせると、まったく違うと言いたいのだが。

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