氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 困ったようにリーゼロッテは眉を下げた。家族を()しざまに言われるのはやはり気分がいいものではない。

「あの、グレーデン様。義父(ちち)義母(はは)はもちろん、ダーミッシュ家の者たちはみな、異形の者の存在を知りません。ですので……」
「ああ、承知(しょうち)している」

 そう言いながら、エーミールはなぜか不服(ふふく)そうな顔をした。

「リーゼロッテ様はヨハンのことは名で呼ぶのに、なぜわたしは家名(かめい)で呼ぶのです?」
「え? グレーデン様は侯爵家の方ですし、わたくしが()()れしくお呼びするのは失礼にあたるでしょうから……」
「あなたは案外(あんがい)頭が固いのだな。これからはエーミールとお呼びください。いいですね?」
「わかりましたわ……エーミール様」

 やはりこの人は苦手だと感じつつ、リーゼロッテは淑女の笑みをエーミールに返した。

 満足そうに頷いたエーミールは扉を閉めて、ベッティたちのもとに向かっていく。三人でしばらく何か会話をしてから、エーミールがベッティを自分の馬の背に乗せていく。そのまま自身はベッティの前にまたがり、エーミールは馬の頭を街道へと向けた。

「あ、ヨハン様!」

 馬にまたがろうとしていたヨハンに、リーゼロッテは馬車の窓から声をかけた。何事かとヨハンが馬ごと足早(あしばや)に駆け寄ってくる。

「何か問題でもありましたか!?」
「いえ、ベッティをお願いしますわね。わたくしのことは二の次でかまいませんから……」
「リーゼロッテ様をおろそかにするなどできませんが……わかりました。侍女殿の様子は道中(どうちゅう)注意して気を配ります。何かありましたら、リーゼロッテ様にもお声がけをいたしますのでご安心ください」

 ヨハンがびしっと騎士の礼をとる。その様子にほっとして「ええ、お願いいたします」と微笑みかけた。

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