氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 この国の王は、龍の意思によって決められる。そして、王の伴侶(はんりょ)となる者もまたそうだと聞いた。王子には龍に決められた婚約者がいる。だが、それはアンネマリーではないのだ。
 どんなにふたりが思い合おうと、この恋が(かな)うことはない。王城での王子の話を思い出し、リーゼロッテは切なくなった。

 王子には託宣で決められた相手がいるはずなのに、王妃は王子の結婚相手を探していた。詳しいことはわからないが、何か事情があるのだろうとリーゼロッテも察してはいた。

(もしかして、王子殿下の託宣の相手が行方不明とか……? ジークヴァルト様なら何か知っているかしら……)

 しかし、自分がどうこう口出しできる立場でないことも、十分にわきまえている。それに聞いたところで、王子に関わる重大機密など、ジークヴァルトが教えてくれるとは思えなかった。

「そうだわ……!」

 ふと思い出して、名案を思いついたようにリーゼロッテはぱちりと両手を胸の前で重ね合わせた。

「ねえ、アンネマリー。アンネマリーには(りゅう)のあざはある?」
「え?りゅうのあざ?」
「ええ、丸い文様(もんよう)のようなこのくらいの大きさのあざよ。体のどこかにないかしら?」

 龍から託宣を(たまわ)った者は、体のどこかに龍のあざがある。王太子の応接室で、王子殿下はいつもつけている白い手袋を外して、手の甲にあるあざをみせてくれた。
 託宣を受けた自分の胸にもそれはあるし、見たことはないがきっとジークヴァルトにもあるのだろう。
 もし、それがアンネマリーの体にも(きざ)まれているのなら、王子の託宣の相手はアンネマリーかもしれないのだ。

 期待に満ちた目を向けられて、アンネマリーは困惑したように口を開いた。

「丸い文様? もしかして、(りゅう)祝福(しゅくふく)の事かしら……? そう言えばリーゼには綺麗な龍の祝福があると聞いたわね」

 ブラオエルシュタイン国では、生まれつきのあざは龍の祝福として喜ばれるものとされている。アンネマリーはそのことを言っているのだと受け止めた。

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