氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 リーゼロッテは部屋の片隅(かたすみ)(ひか)えていたベッティをそばに呼んだ。

「はいぃ! 化粧と(かみ)()いならば、このベッティにお任せくださいぃ!!」

 そう言ってベッティはエラを椅子に座らせると、どこからともなく出したメイク道具で、しゅばばばばっと目にもとまらぬ速さでエラに化粧を施し始めた。
 最後に口紅を引くとベッティは一度頷いて、続いて(くし)とピンを手品さながらしゅばっと取り出した。再び高速の手つきでエラの髪を結上げていく。

 ベッティが櫛を置いて、「ふぅ」と満足げに息をついた。エラの手を取り、腰かけた椅子から立ち上がらせる。

「このような感じでいかかでしょうかぁ?」

 あっけにとられていた一同をしり目に、エラはどこの夜会出しても恥ずかしくない清楚(せいそ)な令嬢に一瞬でメタモルフォーゼした。

「まあ、あなた! すごい早業(はやわざ)ね」
「お()めいただき光栄ですぅ。お急ぎのお支度があれば、このベッティをご指名いただければいい働きをさせていただきますよぅ」
「ふふ、そうね。あなたベッティと言うのね。公爵家の侍女でなければ、うちのお(かか)えにしたいくらいだわ」
「わぁ、奥様、光栄ですぅ」

 ベッティの早業メイクは、夜会などでは重宝(ちょうほう)がられる。主に、乱れた夜の遊びに(ふけ)るご夫人たちによろこばれるのだが、おぼこいリーゼロッテがそんな事情を知るはずもない。

「ベッティがいれば、エラの支度も問題なさそうだし、これでエラもリーゼロッテの準備が心置きなくできるわね」

 クリスタはエラをやさしくみやった。

「ありがとうございます……奥様」
「エラ、泣いてはせっかくの化粧が崩れてしまうわ。ほんと綺麗よ。ベッティもありがとう」
「よろこんでいただけて何よりですぅ」

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