氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「ホント、わたしたちも負けていられないわね! でもエラが美人なのは元からなんだから、いつもそうやって綺麗(きれい)にしていればいいのに」
「そうよ、エラはもっとおしゃれするべきよ」
「リーゼロッテ様のおそばで過ごすのに、過度な化粧は必要ないわよ」

 エラが呆れながら返すと、周りの侍女はもったいないと口々に言った。

「わたしはこれを旦那様に届けないといけないから、もう行くわ」
「ああ、そうなの。引き留めて悪かったわ」

 去り際に「あっエラ!」と一人の侍女がもう一度エラを引き留めた。

「旦那様の執務室へ行くなら、ここは通らない方がいいわ。この先にさっき、その、ペーターがいたから……」

 不義(ふぎ)を働いた元恋人には会いたくないだろう。そんな気遣いからか、こんなふうに気を回してくる同僚が多い。

「ありがとう。でもペーターとのことは終わったことだし、もう何とも思っていないから。わたしはリーゼロッテ様にお仕えできればそれだけで幸せよ。だから心配しないで」
「もう! エラのお嬢様命はあいかわらずね! エラがいいのならもう心配しないけど。……でもペーターの方はそうは思ってないみたい。念のために気をつけて」
「そう、わかった。忠告ありがとう」

 今回の件でペーターの株は下がりまくりだ。特に女性陣からは針の(むしろ)な状態になっている。自業(じごう)自得(じとく)とはいえ、気さくで気の合うペーターを好ましく思っていたのも事実だ。ペーターが相手の女性と幸せになればそれでいいと、エラの中ではその一件はすでに過去のことになっていた。

 そのあとペーターに会うこともなく無事届け物を済ませたエラは、すっかりそんなことも忘れてリーゼロッテの待つ部屋へ戻ろうと廊下を歩いていた。

< 184 / 684 >

この作品をシェア

pagetop