氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「わっ」

 廊下の途中でいきなり腕を(つか)まれ、エラは人気のない場所へと引っ張り込まれた。

「いきなり何を! って、ペーター……?」

 掴まれた腕を振りほどこうと相手を威嚇(いかく)するような声を上げたエラは、自分の腕を掴んでいるのがペーターだと気づくと、拍子(ひょうし)()けしたように肩から力を抜いた。

「やだ、びっくりさせないで。こんなことしてるとあらぬ誤解を受けるわよ?」
 困ったよう声をかけるが、ペーターはエラの顔を凝視したまま怖い顔をして黙っている。

「ちょっとペーター、いい加減手を放して……っつ」
 エラの言葉とは裏腹に、ペーターはエラの腕をつかむ手に力を入れた。

「オレが好きなのはエラだけなんだ」
「…………は?」

 唐突(とうとつ)に紡がれたペーターの言葉に、エラはぽかんと口を開けた。

「あの女とは別れた後に子供ができたと言われたんだ。正直オレの子か疑ってる。エラだけなんだ。だからオレ達やりなおそう」

 真剣な声でペーターはエラをその腕に抱きしめた。

「ちょっとやめてペーター! わたしたちはもう別れたのよ!」

 身をよじって抜け出そうとするが、ペーターはその腕の力をさらに込めてくる。

「強がるなよ。エラだってまだオレのこと好きだろう?」
「は? いやちょっと待って。そんなことあり得ないわ。あなた父親になるのよ? それにあの女性だって……」

 相手の女性にはエラも一度だけ会った。大きなおなかを抱えてペーターと別れてほしい懇願(こんがん)してきたその女性は、ペーターとは幼馴染(おさななじみ)とのことだった。彼女の話だとペーターとは昔から結婚の約束をしていて、お互いの家族もその心づもりでいたらしい。

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