氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 厳しい口調で(にら)み上げるが、ペーターはへらりと(わら)ってエラを無理やり上向かせた。

「そんなわけいくかよ。男爵令嬢でお嬢様のお気に入りのお前を手放すなんて、それこそあり得ないんだよ。なあ、エラ。エラはオレにこうされるの好きだったよなぁ」

 そう言ってペーターはエラの耳朶(じだ)に唇を寄せてきた。生温かい息が耳にかかり、エラの全身に鳥肌が立つ。

「いや、やめて、やめなさい! あんたにこんなことする権利なんかない!」

 ペーターと幾度か口付けを交わしたことはあるが、それ以上の関係になったことはない。エラが必死に腕を振りほどこうともがくと、ペーターは(いら)()ったように大きく舌打ちをした。

「下出にててりゃあいい気になりやがって! お前はオレのためにそばにいればいいんだよ!」

 ペーターの手が大きく振り上げられる。エラは殴られることを覚悟して、咄嗟(とっさ)にぎゅっと目をつぶった。だが、予期した衝撃はいつまでたってもやってこない。

貴様(きさま)、男の風上(かざかみ)にも置けない下衆(げす)野郎(やろう)だな」

 突然、冷静な第三者の声がして、エラは驚いて目を開けた。

「グレーデン様……!」

 そこにはペーターの腕を掴んでねじり上げている騎士服姿のエーミールが立っていた。

「悪いが話は聞かせてもらった。こんな廊下で大声を出していては自業自得だがな。今、見聞きした件はダーミッシュ伯爵に報告させてもらう。エデラー嬢も不服はないな?」
「は、はい、もちろんです……」
「な! 待ってくれ、違うんです! 今のはエラが! そう、エラがやり直したいと嫌がるオレに迫ってきて……!」

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