氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 まだ言いつのろうとするペーターの腕を、エーミールはさらにきつくねじり上げた。

「痛い痛い痛い! 腕が折れるぅ!!」

 エーミールは無造作(むぞうさ)に掴んだ腕を離すと、その反動でペーターは廊下の床に無様(ぶざま)に倒れこんだ。

「貴様、それ以上くだらない戯言(ざれごと)を言うようなら、次は(たた)()るぞ」

 低い声音(こわね)で腰に下げた剣の()に手を添える。エーミールに冷たく見下ろされて、ペーターは尻もちをついたまま後ずさると、意味不明な捨て台詞(ゼリフ)と共に、足をもつれさせながら逃げ去っていった。

 エラはその姿を茫然(ぼうぜん)と見送った。今さらながらに体が震えてきて、無意識にぎゅっと自身の体を抱きしめる。

 不意に目の前に白いハンカチが差し出され、反射的にエラはそれを手に取った。しばらく白いハンカチを見つめていたが、はっと我に返って目の前に立つエーミールの顔を見上げた。
 その瞬間にしずくが(ほお)を伝い、エラは自分が泣いていることに初めて気づいた。

「グレーデン様……」

 (せき)を切ったようにぼろぼろと涙があふれてくる。止めなくては思うのに、そう思えば思うほど涙があふれて止まらなくなる。

「もう少し早く気づいてやれればよかったのだが」
 エーミールはすまなそうな顔をした。

「い、いいえ……グレーデン様……」

 それ以上言葉にならない。エラは受け取ったハンカチを握りしめて、必死に嗚咽(おえつ)をこらえた。涙がぱたぱたと落ちてはハンカチに吸い込まれていく。

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