氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「グレーデン様……?」

 不思議そうに首をかしげると、再びエーミールはエラの顔を覗き込むように凝視してきた。やはり救いようのないくらいパンダ目になっているのだろうか?

「エーミールだ」
「え?」
「家名ではなく、エーミールと呼べばいい」

 不意にそう言われてエラは戸惑った。エーミールは侯爵家の人間で、自分はしがない男爵の娘だ。その身分には天と地ほどの開きがある。

「ですが……グレーデン様をお名前でお呼びするなど……」
「だから許すと言っている。エデラー嬢、あなたはリーゼロッテ様をお支えする、言わばわたしとは同志(どうし)のようなものだ。わたしはジークヴァルト様にすべてを(ささ)げると(ちか)った。あなたのような有能な侍女が、ジークヴァルト様の妻となるリーゼロッテ様のそばにいれば、わたしも安心できる」

「……――っ!」

 エラは鳶色(とびいろ)の両目をこれ以上とないというほど見開いた。驚きのあとに、じわりと歓喜の念が湧き上がってくる。

 今度は反対にエラがエーミールの手を両手で握りしめた。エーミールの手を胸元に引き寄せ、潤んだ瞳でぐいと顔を近づける。

「はい……はい! グレーデン様、いいえ、エーミール様にそのようにおっしゃっていただけて、わたし、本当にうれしいです!!」
「そ、そうか。それは何よりだ」

 驚いたように少しのけぞりかけたエーミールだったが、エラの手を振りほどこうとはしなかった。

「はい! ありがとうございます、エーミール様。どうかわたしのことは、エラと呼び捨てになさってください」
「ああ、そうさせてもらおうか、エラ」

 エーミールにやさしく微笑まれて、エラはその顔の近さに驚いて慌てて手を離した。

< 191 / 684 >

この作品をシェア

pagetop