氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「ししし失礼いたしました」

 エーミールの前では先程から失態(しったい)ばかりをさらしている。ドキドキする胸に手を当てて、エラは冷静になるために大きくひとつ呼吸した。

「いや、かまわない。……エラ、あなたは見ていて()きないな」
「えっ?」

 思わず赤くなった頬を両手で押さえてしまう。意味深(いみしん)台詞(セリフ)だが、平然としているエーミールを見る限りは、そこに深い意味などはなさそうだ。そう思って自分を(いまし)める。

「あ、あの、ご休憩されているところ、お手を(わずら)わせてしまい本当に申し訳ありませんでした」
「ああ、わたしもやることがなくて時間を持て余していただけだ。気に病まなくていい」
「ですがそのようなわけには……」
「あなたも主人に似てなかなかな頭が固いな」

 呆れたような口調で言われたが、そこに不快な感覚はなかった。しかし自分の主人というのは、リーゼロッテのことだろうか?

「まあいいだろう。だったら礼代わりに、何か(ひま)つぶしにできることを提案してくれないか?」
「暇つぶしでございますか……?」

 ダーミッシュ領は平和な土地であるし、屋敷の中で護衛の騎士が活躍する場面などそうそうあるものではない。エーミールが暇を持て余すのも無理のないことだった。

「でしたら、ルカ様の剣の手合わせなどお付き合いいただけますと、ルカ様もおよろこびになると思います」
「ああ、彼はなかなか(すじ)がいいと、ジークヴァルト様もおっしゃっていたな」

 ルカを褒められてエラの気分はさらに上昇した。先程からエーミールは自分がよろこぶ言葉を大盤(おおばん)()()いしてくる。

 今まではリーゼロッテの侍女としていられるのなら、誰に何を言われようともかまわないと思っていた。だが、自分の努力を認めてくれる人がいるというのは、こんなにもうれしく感じるものなのか。エラはうれしさで身震いしそうになるのを必死でこらえた。

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