氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 エラがそう思いながら窓に映った自分の顔をしげしげとながめていると、不意に背後に複数の人の気配を感じた。

「あらぁ、厚化粧(あつげしょう)の女がいると思ったら、エデラー家のエラじゃなぁい。 男に振られて、もう次の(おとこ)(あさ)りをしてるのかしらぁ?」

 振り向くと、商家からダーミッシュ家に行儀(ぎょうぎ)見習(みなら)いで来ている少女とその取り巻きたちが廊下にずらりと並んでいる。

 少女と言ってもエラとさほど年は変わらない。おそらく二十歳前と思われる彼女は背丈も低く、大きなリボンとフリルがふんだんにあしらわれたドレスを身にまとっているため、ぱっと見は幼い少女のように見えた。

 市井(しせい)から行儀見習いに来る彼女たちは定期的に入れ代わり立ち代わりで来るので、エラはいちいちその名前までは記憶していなかった。

(たしか、マッシモ商会のところの末娘(すえむすめ)だったかしら……)

 マッシモ家はダーミッシュ領でも有数の商家だ。エラの実家であるエデラー商会には及ばないものの、最近特に力をつけてきている家だった。

「リーゼロッテ様に()びを売っていい気になってるからそんな目にあうのよ」

 少女が鼻で笑うと、取り巻き達からも嘲笑(ちょうしょう)がもれた。
 もともとは一介の商家だったエデラー家は、運よく王家の目に留まり男爵位を(たまわ)ることができた。それをやっかむ人間は少なくない。マッシモ家もそのひとつで、長年にわたって敵対視されている。

 エラはこの手合(てあ)いには慣れっこだった。とにかく相手にしないに限る。返事をしてやる義理もないので、エラはそのままその場を去ろうとした。

「ちょっと! あたしが話しかけてるのよ! ちゃんと聞きなさいよ!」
 少女の合図で取り巻きたちがエラの前に立ちふさがる。

「どこのどなたか知りませんが、わたしは仕事があるので、そこをどいていただけますか?」
「なっ!?」

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