氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 少女はかっと顔を赤くした。ライバル視している相手にお前は誰だと言われ、いたくプライドが傷ついたのだろう。

「ふざけないで! ほんと、いい気になって! あんたなんかおべっかだけでお嬢様に取り上げられたくせに、そのうち痛い目をみるんだからっ!」

 かんしゃくを起こした子供のように少女は地団駄(じたんだ)()んだ。

「話はそれだけですか? では、わたしは急ぎますので」
「それだけって何よ! あたしはそのうちルカ様を手玉(てだま)に取って伯爵夫人になるんだから! あんたなんかすぐに首にしてやる!」

 周りからさんざん甘やかされているのだろう。そんなあり得ない話が実現すると、少女は本気で思っているようだ。

 少女とルカの年はおそらく十歳は離れている。たとえ少女が貴族の()だったしても、その時点でよほどその婚姻に利点がない限り、候補から外れることになぜ気づかないのだろうか?
 それに貴族の世界は少女が思っているほど甘くはない。こんな形ばかりの行儀見習いすらまともにこなせない人間が、無傷(むきず)で生きていけるような場所ではないのだ。

「ルカ様を? 手玉に?」

 エラは、すん、と冷たい顔になって、無表情で少女を見下ろした。背の高い美人に(すご)まれると迫力は満点だ。

「え、ええ、そうよ! あたしの美貌(びぼう)をもってすれば、あんな坊ちゃんイチコロに決まってるわ!」
「……今の言葉は聞かなかったことにします。それ以上言うのなら、旦那様に報告せざるを得なくなりますが」
「な、何よ……自分はひいきされてるからって……! 男たちに色目(いろめ)ばかり使って、どうせ旦那様にも(いろ)仕掛(じか)けで取り入ったんでしょう!」

「わたしのことはどう言おうと一向にかまわない。けれど、ダーミッシュ家の方々を(おとし)めるような発言は絶対に許さないわ!」

 エラの(りん)とした声が廊下に響く。取り巻きたちはびくりと身を震わせ、その身を寄せ合った。

売女(ばいた)のくせに!」

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