氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 エラはヨハンの顔を目を見開いて凝視した。

「この刺繍を……カーク様が……?」

 ヨハンの顔とハンカチを交互に見やるエラを前に、ヨハンは巨体を丸めて慌てたように胸の前で両手を振った。

「ああっすまないっ、気持ちの悪いことを言って……」
「……しいです」
「え?」

 エラはハンカチを手にしたまま、ヨハンの手を取り自分の顔の高さまで持ち上げた。

「素晴らしいです! カーク様! この大きな手が、このように繊細な刺繍を生み出すなんて……!!」

 エラはヨハンの手をまるで大事な宝物のように握りしめた。頬ずりしそうなエラの勢いに、ヨハンの全身は真っ赤に染まった。

「え、え、え、え、エデラー嬢……!」
「はっ、わたしったら……! なんて不敬(ふけい)なことを」

 慌てたエラが手を放そうとすると、今度は逆にヨハンがエラの手を握り返した。ちょっと痛いくらいの強さだったが、エラは振りほどくこともできずに力を抜いてヨハンに手を預けた。

「エデラー嬢はオレを不快に感じないのか?」
「ふかい……でございますか……?」
「ああ……オレはこの容姿だ。ただでかいばかりで気も()かぬ男だし、そんな男が刺繍を趣味にしているなどと聞いたら、エデラー嬢だって気持ちが悪いだろう?」

 自嘲(じちょう)気味(ぎみ)に語るヨハンに、エラはぽかんと口を開けた。

「……いいえ。わたしはそのようにはまったく思いませんが」
「いや、いいんだ。正直に言ってくれても」
「ですから先程、正直に申し上げました。カーク様が施された刺繍は、大変素晴らしいものですと。このようなものを作り上げる方を尊敬することはあれど、気持ち悪いなどと思うことなどあり()ません」

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