氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 エラの尊敬のまなざしをまっすぐに受け、ヨハンの顔は湯気(ゆげ)が出そうなほど赤みを()びた。

「そそそ尊敬などと大げさな」
「いいえ! この刺繍はわたしが今まで見た中でも、随一(ずいいち)と言っていいほど素晴らしいものです! カーク様、心より尊敬申しあげます!」

 再び手を握り返してエラはヨハンに詰め寄った。食い入るようにヨハンの青い瞳を見つめる。

「厚かましいお願いとはわかっておりますが、ぜひともわたしにこの刺繍の技術を伝授(でんじゅ)していただけませんか!?」
「それはかまわないが……」
「本当ですか!? ありがとうございます!!」
「……エデラー嬢、君って人は……」

 ヨハンが何かを言いかけた途中で、エラはハンカチを強く握りしめていることに気がついた。

「ああ! ハンカチにシワがっ!!」
「ああ、いや、べつに大丈夫だ」
「いいえ、責任をもってきれいにしてからお返しいたします! ああ、せっかくの刺繍が……」
「ハンカチなのだからそんなものだろう」
「ですが……!」

 そう言いながらもエラは愛おしそうに刺繍のステッチを指でなぞっている。そんなに気に入ってくれたのだろうか?

「よければそれはエデラー嬢に差し上げようか?」
「え!?」

 エラは驚きと期待に満ちた目を向けた。

「いえ、ですが、そんな厚かましいこと……」
「いや、ハンカチなら何枚もある。刺繍はいつでもまた刺せるし」
「本当にいただいてもよろしいのですか?」
「ああ。その代わりひとつ……いや、ふたつ願いがあるのだが」
「はい、なんでしょう?」

 エラがハンカチを手にしたまま軽く首をかしげた。そのしぐさにヨハンの顔がまた赤く染まる。

「その、エデラー嬢のことを、名前で呼んでもかまわないか?」
「はい、もちろんです」
「それとオレのことはヨハンと、そう呼んでほしい」
「はい、承知しました、ヨハン様」

 そのようなことならお安い御用だとエラは笑顔を返してから、再びハンカチに目を落とした。ヨハンの刺繍を見つめながら「本当に美しいです……」とため息をこぼす。

「いや……美しいのはエラ嬢……君だ……」
 ヨハンの呆けたように開かれた口から小さなつぶやきが漏れた。

「ヨハン様? 今何かおっしゃいましたか?」
「あ、いや、何でもない!」

 再びヨハンはわちゃわちゃと両手を振った。

 あの大きな手がこの繊細な刺繍を生み出すのだ。ヨハンの手は魔法の手に違いないと、エラはうっとりとその動きを(なが)めていた。

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