氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 えぐえぐとリーゼロッテはしゃくりあげた。本来であれば侯爵令嬢の立場なら、身分的に王太子(おうたいし)()になってもおかしいことではない。しかし、龍の託宣がそれを許さないのだ。

(アンネマリーと王子殿下は、絶対に両想いなのに……)

 それを言ったところで、アンネマリーが余計に傷つくだけだ。何もできないくせに安易に涙を流す自分にも腹が立ったが、何より龍の存在が(うら)めしく思えた。

「ありがとうリーゼ……わたくしのために泣いてくれて……」

 泣きじゃくるリーゼロッテをぎゅっと抱きしめる。自分の涙はもう枯れ果ててしまった。だからもうお終いにしよう。
 アンネマリーはリーゼロッテの肩口に顔をうずめ、(ささや)くように言った。

「ね、リーゼ。わたくし、とてもしあわせな夢を見た気分なの。王子殿下はいずれこの国を背負って立たれるお方……そんな雲の上の存在の王子殿下と、ほんのひと時でも同じ時を過ごせたんですもの……」
「アンネマリー……」
「だから……もういいの……」

 アンネマリーの切ない思いが伝わってきて、リーゼロッテはさらに顔をゆがませた。大粒の涙がぼろぼろとこぼれ落ちる。

「そんなに泣いては目が溶けてしまうわよ」

 いたずらっぽく笑うと、アンネマリーは()れるリーゼロッテの頬に軽いキスを落とした。

「わたくしね、白の夜会が終わったら、お父様に頼んでまた隣国へ行こうと思うの」
「え?」
「テレーズ様のおそばにお仕えして、少しでもお支えしたいのよ。それに、隣国で素敵な殿方と恋に落ちるのもいいかもしれないわね」

 明るくウィンクして見せる。

 他国との交流を必要最低限に(つらぬ)いてきたブラオエルシュタインだが、これまでの歴史の中で国際結婚がなかったわけではない。

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