氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 前王妃のセレスティーヌは隣国(りんごく)の王女だったし、セレスティーヌの娘である第二王女テレーズが隣国の王族へと嫁いだのは二年ほど前の話だ。それ以外に、貴族同士での婚姻も過去に例はいくつかあった。

 実際にアンネマリーの従兄(いとこ)は隣国の貴族令嬢と結婚しており、子供ももうけている。その従兄は現在、アンネマリーの父トビアスの外交補佐についていて、将来、養子に入ってクラッセン侯爵家を継ぐ予定だ。

 一人娘のアンネマリーは今のところ婚約者はいないが、いずれ侯爵令嬢として他家へ嫁ぐことになるだろう。隣国の貴族と政略結婚することもあり得る話だ。従兄の結婚も外交を行う上での政略結婚だったが、ふたりは仲睦まじく、いつ見てもうらやましいくらいだ。

「ね、だから、もうそんな悲しい顔はしないで……リーゼの可愛らしい笑顔を見せてちょうだい」

 濡れた頬を両手で包んで、覗きこむように微笑んだ。リーゼロッテは、懸命(けんめい)に涙を止めようとしているが、しゃくりあげては涙があふれてきてうまくいかないようだ。

「リーゼは昔より泣き虫になったのではない?」

 茶化すように言うと、リーゼロッテは口をへの字に曲げて鼻をすすりあげた。

「だって……だって、わたくし、アンネマリーのために何もしてあげられない……」
「……わたくしのためにこんなに泣いてくれているじゃない……わたくしそれだけで、リーゼに救われた気分だわ……」

 リーゼロッテの涙がこぼれるたびに、王子への未練(みれん)も一緒に洗い流されていくようだ。今なら思える。あれは、王城の奥にある美しい庭がみせた、(はかな)(まぼろし)だったのだと。

 思いがけず王子にやさしくされて、立場も忘れて舞い上がってしまった。手に届く存在だと錯覚(さっかく)して、勝手に傷ついた自分がおろかだったのだ。

(だから本当に……もう終わりにしなくちゃ)

< 21 / 684 >

この作品をシェア

pagetop