氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
     ◇
「それでそのハンカチを、ヨハン様にいただいたのね?」
「そうなのです! ご覧になってください、この見事な刺繍を」

 エラはヨハンのハンカチをリーゼロッテの前で広げて見せた。

「まあ、本当、まるで絵画(かいが)のようね」
「ああ、はやくヨハン様にこの刺繍の刺し方を教えていただきたいものです……」

 夢見るように語るエラはまるで恋する乙女のようだ。

「エラが教えを()うほどだなんて……ヨハン様ってすごい方ね」

 あの見てくれで女子力が高すぎる。マテアスなどは従者なのでまだわかるのだが、カイも紅茶を()れるのがうまいし、この世界の貴族の男性はリーゼロッテの持つイメージとは少し違うようだ。

(ヨハン様が乙男(おとめん)だったなんて意外過ぎるけど……エラが楽しそうだからまあいいか)

 人は見かけによらないものだと思いつつ、リーゼロッテはエラの様子に微笑んだ。

「ああ、それとお嬢様。今度、エーミール様を街にご案内するお約束をしましたので、少しお嬢様のおそばを離れる時間をいただくことになるかもしれません」
「エーミール様を?」
「はい、旦那様にはもう許可をいただいております」
「そうなの、気をつけて行ってきてね」

 リーゼロッテはやさしく答えたが、自分自身は街へ外出したことは一度もない身だ。少しうらやましくも感じてしまう。

「お嬢様のご病気は随分とよくなられているのですよね? エーミール様もいらっしゃることですし、一緒に出掛けられるよう旦那様にお頼みになってはいかがでしょう?」

 魅力的な提案だが、以前ジークヴァルトに言われたことを思い出す。自分が街中を出歩くと異形の者たちが寄ってきて、トラブルを巻き起こすことは目に見えている。

「そうね……でもこの間、ジークヴァルト様が王都の街に連れていってくださるとおっしゃっていたの。だからそれを楽しみに待ってみようかしら」
「まあ! 公爵様が! それは楽しみでございますね」

 瞳を輝かせるエラに、リーゼロッテは微笑み返した。

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