氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 そんな二人の様子をエーミールは向かいの席から黙って見ていた。

(このご様子なら、おふたりにお子ができるのも時間の問題だな)

 ふっと口元に笑みが浮かぶ。エーミールは子供時代からジークヴァルトをよく知っている。あの彼がこのようにひとりの女性に固執(こしつ)するなど、今までは考えられもしなかった。

「……エーミール様」

 横から控えめに声をかけられて、エーミールは隣に座っているエラに顔を向けた。不思議なくらい至近(しきん)距離(きょり)にあったエラの顔に驚き、思わずその顔をじっと見つめてしまう。

「……危険なところ、ありがとうございました。その……そろそろ離していだだいても、大丈夫かと思うのですが……」

 エラは自分の胸板(むないた)に寄りかかって、所在なさげに目をさ迷わせている。頬を染めているエラをしばらく見つめていたエーミールは、いまだエラの肩を抱き寄せている自分にようやく気がついた。しかも反対の手はエラの白い手を握りしめて自分の膝の上で拘束(こうそく)している。

 そんな中、再び馬車は静かに走り出した。カラカラと車輪が回る音が響き渡る。
 彼女の顔が近すぎるのは、誰でもない自分のせいだ。はっとして、エーミールは慌ててエラを自分の腕から解放した。

「ああ、っとその、怪我がなくて何より……――ぐっ!」

 言いかけてエーミールは自身の口元に手を当てた。しばらく忘れていた吐き気が、一気にその身を襲ったからだ。

「エーミール様?」
「何でもない、大丈夫だ」

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