氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
     ◇
(ああ、これぞ異世界の街並み……!)

 速度を落とした馬車の窓から見える景色に、リーゼロッテは目を輝かせた。もうすぐ自分の足であの石畳(いしだたみ)の通りに降り立てるのだ。リーゼロッテが外を見たそうにうずうずしていると、ジークヴァルトは何も言わずに窓の方へ体を寄せた。

 膝に抱っこされた状態は相変わらずだが、もうこれは天然のチャイルドシートなのだと己を納得させる。リーゼロッテはその身をジークヴァルトに預けた完全リラックスモードで、貴族街の街並みを食い入るように見つめていた。

 赤レンガで統一された建物が、整備された大通りの左右に広がっている。軒先にはそれぞれ特徴のある(はた)がはためき、その旗はそこが何の店なのかを知らせているようだ。ある店は大きなガラス窓から中が(うかが)え、またある店は重厚な扉でその格式高さを鼓舞(こぶ)している。

 王都の中心部にある貴族街に足を()み入れる者は限られている。身分のある貴族か、主人のお使いで訪れる使用人、それも王城で発行される正式な許可証を(たずさ)えた者のみがこの場所に来ることが許されていた。平民にとっては生涯訪れることのないあこがれの地だ。

 リーゼロッテたちを乗せた馬車は当然のごとく貴族街入口の大きな門を超え、ロータリー状になった馬車留めのひとつに静かに停車した。
 他にも貴族の馬車はいくつも停められていたが、公爵家の馬車は中でも周囲にいた人間の注目を集めていた。先に馬車から降りて目抜き通りへと向かっていた貴族も、主人の帰りをのんびり待っていた使用人たちも、興味津々といった様子で公爵家の馬車を目で追っている。

< 216 / 684 >

この作品をシェア

pagetop