氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「うそ! あのご令嬢は一体誰!?」
「本当……見たことない方ね」
「あのエーミール様にとうとう恋人が!?」

 色めき立つ女性陣の視線が、赤毛の令嬢に突き刺さる。それを意に介した様子もなく、令嬢はエーミールと並んで馬車の扉に向き直った。

「まだ中に誰かいらっしゃるようだわ」
「やっぱりディートリンデ様かしら?」

 馬車から最後に降りるのは、いちばん地位が高い者だ。エーミールと謎の令嬢はお付きで来たのかもしれない。そう思って一同は再び馬車の扉に注目した。
 黒い外套を着た長身の青年がゆっくりと姿を現す。その人物に、誰しも言葉を失った。

「なんてこと……あれは……フーゲンベルク公爵様だわ……」
「え!? あの方が、噂のジークヴァルト様……!?」

 ジークヴァルト・フーゲンベルクは、若くして公爵家を継いだことで有名だ。王太子付きの近衛(このえ)騎士(きし)ということもあり、その妻の座を狙っている令嬢は数多い。だが、その彼に浮いた話はほとんど存在しなかった。

 何しろ、フーゲンベルク公爵は、夜会など社交界の表舞台に滅多に姿を現さない。たまに出席したとしても、ハインリヒ王子の護衛として参加する程度だ。人間嫌いとの噂がある上、彼に(にら)まれてトラウマになってしまった者の話などもよく耳にする。

 そんな社交嫌いの彼が貴族街に出没するなど、晴天の霹靂(へきれき)のようだ。これはやはり、母親のつきそいで仕方なくやってきたのだろう。次に降りてくるのは、公爵の母であるディートリンデに違いない。

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