氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 リーゼロッテは声なき声を出して、横にいるジークヴァルトにしがみついた。しかし、ここは多くの貴族が行きかう往来(おうらい)だ。そのことを思い出して、リーゼロッテは「申し訳ございません」と慌てて身を離そうとした。
 人が集まる場所には異形の者も集まりやすい。そうジークヴァルトに言われていたのに、さっそく迷惑をかけてしまった。浮かれ気分もほどほどにしなくては。

「問題ない、オレが見ている。お前は普段通りでいい」

 無表情で見下ろしながらそっけなく言うと、ジークヴァルトはリーゼロッテの手を引いて再び歩き始める。歩きづらくない程度に腰を引き寄せられ、先ほどよりも密着して歩く形となった。

(……なんだか過保護がパワーアップしているわ)

 王城の廊下でも似たような場面があった。そのときは「(つか)まれるからよそ見はするな」と言われたように思う。

(なんでだろう。あの時よりも異形に慣れたし、力の制御もずいぶんできるようになったはずなのに……)

 それに普段通りでいいと言われても、急に異形の気配が気になりだした。通りを見回すと、木陰や細い路地裏などに、異形の影が揺らめいているのが見て取れる。なんだか店の物色どころでなくなってしまったリーゼロッテは、足元の石畳の上だけに意識を集中して慎重に歩を進めた。

 ふとジークヴァルトがある店の前で足を止めた。リーゼロッテが顔を上げると、その店のカーテンは閉められ、他の店の前に(かか)げられているような(はた)も出ていない。どうやら休業日のようだ。

 不思議に思ってジークヴァルトを見上げようとしたとき、閉ざされていた店の扉が涼し気な鈴の()と共に開け放たれた。

「ようこそおいでくださいました、フーゲンベルク公爵様」
「ああ」

 (うやうや)しく腰を折られ、店の中へと促される。当たり前のようにジークヴァルトは店内へと足を踏み入れた。

「では、わたしどもは入口で控えております」
「いや、時間まで好きに過ごすといい。次の店で待っている」

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