氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 エーミールの言葉にジークヴァルトはそう静かに言い残すと、リーゼロッテを連れて店の奥へと消えていった。
 店の従業員に頭を下げられ、目の前の扉が閉められる。その様子をエーミールは苦い顔をして見つめていた。

 そのままそこを動かないエーミールに、エラは黙って従った。エラも貴族街は久しぶりだが、今日は遊びで来ているわけではない。公爵がそばにいれば心配はないだろうが、万が一リーゼロッテが何かあったときにはすぐ駆け付けられる距離にはいるべきだろう。

「では、わたしたちも行こうか」

 振り向いたエーミールに突如(とつじょ)そう言われて、エラの口から「えっ?」という声が漏れた。

「何を驚く? ジークヴァルト様の(おお)せだ。ここに張り付いている方が返ってご迷惑になるだろう」

 閉ざされたの店の前に立つふたりに、周囲から好奇の目が寄せられている。エラは考える(ひま)もなくエーミールに手を取られて通りを歩き出した。

「あの、エーミール様、一体どちらへ……?」
「さあ? あいにくわたしは貴族街など興味なくてな。エラ、あなたはどこか行きたいところはないのか?」

 こういった場所は女性の方が詳しいだろうとエーミールが逆にエラに問いかける。行きたいところならあるにはあるが、そこへエーミールを連れて行ってもいいものだろうかとエラは逡巡(しゅんじゅん)した。

「あの、では、あそこの店などはいかがでしょう?」

 エラが指し示したのは、馬具の専門店だった。馬に乗るエーミールならば、気もひかれるだろう。そう思って、エラはその店のある方へ足を踏み出した。が、手を取っているエーミールが動かなかったため、結局エラは一歩も進むことはできなかった。

「エラ、あなたは馬に乗れるのか?」
「え? いいえ。わたしは乗馬は(たしな)んでおりません……」
「ならば行っても仕方がないだろう」
「ですが、エーミール様は……」

 困ったように言うエラを見て、エーミールはその意図(いと)がようやくわかったらしい。

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