氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「ふん。必要なものがあるなら屋敷に商人を来させればいいだけの話だ。わたしはこのような場所に興味はない」
「でしたらどこかで休憩いたしましょうか? エーミール様は道中お辛そうでしたし……」
「辛かったのはエラ、あなたの方なのだろう?」

 エーミールにくいと片眉を上げられて、エラははっとした顔になった。

 エラには乗るたびに馬車酔いをする弟がいる。いつも背中をさすったり抱きしめたりすると症状が和らぐので、エーミールも気がまぎれるならとあんな行動に出たのだ。さすがにエーミールを抱きしめるわけにはいかなかったのだが。

「そ、そうです! エーミール様のおかげでどんなに心強かったことか」

 そうだ、あれは自分のために手を握ってもらっていたのだ。決してエーミールが馬車酔いしていたからではない。

「そうか。ではエラ、あなたはその件でわたしに感謝をしているということだな?」
「ええ、もちろんです!」
「よし。ならばここで手に入る物、何でも好きな物を買ってやろう」
「…………はい?」

 疑問形になった返事を肯定ととらえたのか、エーミールはそのままエラの手を引いて歩き出した。

「何がいい? 宝石か? ドレスか? あまり時間はないが選ぶまで付き合ってやろう」
「え? いいえ、それでしたらむしろわたしがエーミール様に感謝のしるしを示さねばならないはず。エーミール様から何か買っていただくなどできません」

 おろおろしているエラをエーミールは意外そうに見た。

「何でも買ってやると言っているんだ。何をためらう必要がある?」
「何をとおっしゃられましても……」

 馬車での件は、エラのために手を握ってもらっていたことになっているのだ。そうであれば、感謝されるべきエーミールがエラに何かを買うのは(すじ)(ちが)いだ。

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