氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「感謝しているというのなら、わたしの意向に沿()うべきではないのか? それに、わたしは借りを作るのは好きではない。有能な侍女であるエラ、あなたにならこの意味はわかるだろう?」

 エラとしてはエーミールのプライドを尊重しての行動だったが、当のエーミールはエラの口止めの保証を望んでいるのだ。それを理解すると、エラは(あきら)めを含んだ笑顔を返した。

「…………本当に何でもよろしいのですね?」
「ああ、もちろんだ」

 そう答えたエーミールは内心ほくそ笑んでいた。有能と言ってもエラも女だ。宝石や高価なドレスを前にすれば、目がくらんですぐにその正体が知れるだろう。

 エラが行きたい店があると言うので、エーミールはやさしくエスコートしながらそれにおとなしく従った。通りを行く途中、わざと異形が吹きだまっている場所へと誘導する。
 驚くべきことに、エラが近づいていくと異形たちは奇妙な行動にでる。先ほどジークヴァルトたちの後ろを歩いていた時から、それが気になって仕方がなかった。

 ジークヴァルトは基本、異形たちに狙われている。異形の者は憎しみの感情を彼に向け、しかしその強大な力に近づくことはできずに、常に遠巻きに(にら)んでくるだけだ。しかし、そのジークヴァルトの隣にリーゼロッテがいると、これまた不思議なことが起きる。

 リーゼロッテから(あふ)れる力に()かれるのか、異形たちは引き寄せられるようにリーゼロッテへと近づいてくる。その隣にジークヴァルトがいるというのにだ。

 結局はジークヴァルトの力に弾き飛ばされては消しとんでいくのだが、それでも我慢がきかない子供のように、その(けが)れた手を伸ばしてくる異形の者は後を絶たない。
 ジークヴァルトが強固な結界をはっているからだろう。それにリーゼロッテは何も気づいていない様子だ。

 その後ろを静かに歩くエラは、その光景に全く動じない。禍々(まがまが)しい異形が近づこうとも、目の前で(みにく)い異形が消し飛ぼうとも、エラは微笑ましそうにリーゼロッテを見つめているだけだ。彼女には異形は視えないのだからそれは至極(しごく)当たり前のことなのだが、エーミールにしてみればそれは異様な光景だった。

 エーミールはエラの手を引き、さりげなく異形のいる吹き溜まりへとエラの足を踏み込ませる。すると異形は身を縮こませるようにエラから距離を取ろうとした。

(……やはりな)

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