氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「エラお嬢様! こちらにいらっしゃるなんて、何かございましたか!?」
「今日は、リーゼロッテお嬢様のお供で来たの。少しお時間をいただいたので、何か買って帰ろうかと思って」
「え? お嬢様からお代をいただくなど」
「いいのよ。今日は素敵なスポンサーがいらっしゃるから」
「へ?」

 目の前のやり取りを見て、エーミールはここがエデラー商会の店であるのだと気がついた。エラの家の店で買い物をすればエデラー家の(えき)となる。どうせ店の中でいちばん高価な物を選ぶのだろう。
 エラは思った以上に狡猾(こうかつ)な女のようだと、エーミールは鼻で(わら)った。自分にしてみればこのような低ランクの店での買い物など痛くもかゆくもない。なんなら店ごと買い取ってやってもいいくらいだ。

「あちらの旦那様は……? はっ、もしやエラお嬢様……庭師と別れたばかりなのに、早速(さっそく)新しい恋人に(みつ)がせようと……ぐほぉっ」

 エラの右アッパーがエーミールの死角で炸裂(さくれつ)した。腹をえぐるように(こぶし)を突き立てる。笑顔を作りながらもこめかみに青筋を立たせて、エラは早口でささやいた。

「なんでハンスがそんなこと知ってるのよ! それにエーミール様は恋人などではないわ。いい? よく聞いて? 今日のことは絶対に誰にも口外しないこと。ぜえったいに! もちろん父さんにもよ!」

 念を押すように子供の頃からつきあいのある男、ハンスに小声で話しかける。

「ほう……エーミール様……グレーデン侯爵家の次男坊ですね……これはまた大物を釣り上げて……」

 さすがお嬢様、とつぶやきながら品定めするように目を細めるハンスに、再びエラは拳を作った。もちろんエーミールには見えないようにだが。

「わかりました! わたしは何も見ていません! 今日エラお嬢様が来たことも、社交界きってのモテ男と手に手を取って歩いていたことも、わたしは何も見ていませんとも!」

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