氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「別にこの店でなくてもいいだろう? 欲しい物がないのなら他の店をあたればいい」

 エラは困ったように目の前に置かれた品々に目をやり、そして最終的に別の(たな)に置かれた宝飾品に目を止めた。

「でしたら、こちらのお揃いの……」

 エラの言葉に、エーミールはそらみたことかと半ば笑いかけた。エーミールは義理で女性に物を買い与えたことはあるが、揃いの物を贈ったことは一度もない。だがエラのためになら買ってやってもいいだろう。

「ブローチを」

 そう言ってエラが手に取ったのは、ふたつの小さなブローチだった。この国にブローチを男が身に着ける習慣はない。エーミールはエラがなぜそれを選んだのかが理解できずに、無意識に眉根を寄せた。

「こちらを……リーゼロッテお嬢様とお揃いで着けられたら、とてもうれしいです……」

 うっとりとした様子で頬を染めるエラを前に、エーミールは目を見開いた。よく見るとエラが手にするブローチには、リーゼロッテの瞳の色によく似た緑の石がはめ込まれている。

「……エラお嬢様、そんなんでは本気で婚期を逃しますよ」

 ハンスがぽつりともらしながら、残念な子供を見るような視線をエラに送った。

 エーミールは自分の勘違いにじわじわと恥ずかしさがこみ上げてくる。なぜなのだろう。エラのそばにいると心が穏やかになるのに、そのエラの言動にやたらと羞恥(しゅうち)や怒りを覚えてしまう。

 エーミールはひとつ大きく息を吐くと、努めて冷静な声でエラに告げた。

「エラ、悪いがそれは承諾(しょうだく)できない。考えてもみてくれ。わたしがその(そろ)いのブローチをあなたに贈ったところで、その一つはリーゼロッテ様にお渡しするのだろう? 出所(でどころ)がわたしと知れている装飾(そうしょく)を、ジークヴァルト様がリーゼロッテ様に身につけさせると思うか?」
「あっ!」
「そんな単純なことも分からないとは。あなたは存外(ぞんがい)抜けているな」

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