氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 エラを椅子に座らせ、ハンスはささっとエラの髪を整えた。本来なら夜会などに身に着けてもいいくらいの品だ。どこかで落とされてはたまったものではない。

「またのお越しをお待ちしておりま~す」

 ちりりんと扉のベルが鳴って、エラはエーミールと共に半ば追い出されるように外に出た。

「あの、本当によろしかったのですか? うちの店ですし、今からでも……」
「わたしに恥をかかせたいのか?」
「いいえっ、滅相(めっそう)もございません!」

 言葉とは裏腹に、エーミールは上機嫌の様子だった。これだけ高価な物を贈ったのだ。これでエラに口止めができると安心しているのだろう。こんなものがなくとも、エーミールが馬車酔いしたなどと誰にも話す気はないのにと、エラは苦笑いをした。

「疲れたのか?」
「いいえ、このように高価な物を身に着けるのは初めてのことで……」

 夜会などならともかく、貴族街と言えどここはただの往来(おうらい)だ。落ち着かなくてそわそわしてしまうのも仕方がなかった。

「心配するな。そのための護衛だ」
「ですが、わたしを守っても仕方ないのでは」

 エーミールは公爵とリーゼロッテのために護衛としてついてきた。エラはそう思って、つい本音を口にした。

「あなたが傷つけばリーゼロッテ様が悲しむ。それだけの理由では足りないのか?」

 エラは驚いてエーミールを見上げた。エーミールはいちいち核心をついて来る。それはうれしくもあり、自分の至らなさを的確に指摘されているようで、なんとも悔しい気持ちにもさせられる。

「まあ、いいだろう。次の店の予約までまだ時間がある。疲れていないのならもう少し見てまわるとするか」

 そう言ってエーミールは有無を言わさずエラの手と取って歩き出した。

「あの、エーミール様……人目が……」

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