氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 不釣り合いなくらに高価な髪飾りをつけた地味な女がエーミールにエスコートされて、見せつけるように貴族街を()り歩いていたとなると、どんな噂が立つか考えるだに恐ろしい。言っているそばからすれ違ったご夫人たちの視線が刺さる。

「なんだ? エラ、あなたはわたしと歩くのが恥ずかしいのか?」

 不機嫌そうな声音に、エラは慌てて首を振った。

「いいえ、わたしではなくエーミール様にいらぬご迷惑を」
「なぜ歩いたくらいでわたしに迷惑がかかるのだ? まったく、あなたは理解できない」

 エーミールはもともと社交界の噂には(うと)かった。親しい友人もいないためどこからも情報が回ってこず、孤立(こりつ)無援(むえん)となっているだけなのだが、幸か不幸か本人はそのこと自体に気づいていない。
 エーミールにとって情報とは、自分が見聞きし、そして自らが調べ上げた事柄(ことがら)のみがすべてだった。

 あてどもなく歩く中、エラはどこか人目の少ない場所へ行けばやり過ごせるのではと思い始めた。だが、どこの店もそれなりに人がいるようだ。それにひと所にとどまるのも、余計な詮索(せんさく)をされかねない。

 エーミールがどうも嘘をつけない性格らしいことは、エラにもなんとなくわかってきていた。真実は隠すべきことではない。そう思っているからこそ、気障(きざ)台詞(セリフ)も恥ずかしげもなく口に出せるのだろう。

 そんな中で誰かにこの髪飾りの話をふられたら、素直に自分が贈ったものだと言ってのけそうだ。どこかよさげな場所はないだろうか。人が少なく、ふたりで連れ立っていても見とがめられないようなそんなところが。

 気づくと貴族街もはずれの方にまでやってきていた。ふと目に留まった店の(はた)にエラは「ここは……!」と驚いたような声を上げた。どんな店も素通りしていたエラが興味を示した店に、エーミールも目をむける。

< 231 / 684 >

この作品をシェア

pagetop