氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「い、いいえ、ヴァルト様。どちらにしようかと迷うことも買い物の楽しみですわ。どうか(こころ)()かれるものを選ばせてくださいませ」
「そうか」

(あや)うく店ごと買われるところだったわ……(セレブ)(マジ)(ヤバイ)……)

 もたもたしていると本当に店の品を買い占めるとジークヴァルトが言い出しそうで、リーゼロッテは慌てて近くの陳列台に歩み寄った。

「お気に召したものはどうぞお手に取ってご覧ください。何かご質問がありましたら何なりとお聞きくださいませ」

 後ろから店主がやさしく声掛けをくれた。リーゼロッテは振り向いて笑みを返すと、再び陳列台に目を向けた。

 宝飾品やドレスはすでにいっぱい持っているのでそれほど興味はない。貴族が着るドレスは注文による一点ものがほとんどなので、ここに飾られているドレスは飾りの意味が強いのだろう。

 リーゼロッテは吸い寄せられるように小物が置かれた棚へとまずは向かった。

(こういうお店って大抵手前が安い商品で、奥に行くほど高級なものが置かれてるものだけれど……)

 この世界でもそれが常識なのかリーゼロッテにはわからなかった。

(しかも、値札とかついてないし)

 そう思ったリーゼロッテは、そもそもこの国の通貨が何であるかすら知らないことに気がついた。淑女マナーの一環として数字のことは習ったが、通貨の単位や物価など、そこらへんの知識がずっぽりと抜けている。

(断罪で身分剥奪(はくだつ)とかされたら絶対に生きていけない……)

 異世界に転生した以上は、悪役令嬢のリスクはまだ残っているかもしれない。舞踏会でジークヴァルトに強制力が働いて、突然婚約(こんやく)破棄(はき)を言い渡されたりしたら大ごとだ。この国の通貨や庶民の暮らしについて、帰ったらエラにそれとなく聞いてみようとリーゼロッテはひとり深く(うなず)いた。

「あ……」
 ふと小さな宝石箱のようなものが目に入る。

(これ、オルゴールだわ)

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