氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 そっと手に取って箱を裏返してみる。

「そちらはオルゴールと言って、そのゼンマイを巻くと美しい音色(ねいろ)が流れるからくりでございます」

 再び店主が声をかけてきた。わたし知ってますと どや顔で言うわけにもいかず、リーゼロッテは再び微笑みを返してから箱の底にあるゼンマイを回した。

 キリキリと限界まで回しきってから手を離す。すると涼やかな音色が箱から流れだした。聞いた事はない曲だが、とても美しいメロディラインだ。

 耳元近くでその響きを堪能(たんのう)していると、やがて一音一音がゆっくりとなり、最後にピンが櫛歯(くしば)をひとつ(はじ)いて、余韻(よいん)を残したまま回っていたゼンマイは動きを止めた。

 リーゼロッテはその箱を戻すと、(となり)にあったオルゴールを手に取り同じようにゼンマイを回した。今度は明るく軽快なメロディだ。聞いては別の箱を取り、気に入ったメロディは再び手に取ってゼンマイを回したりと、そんなことを幾度(いくど)か繰り返すと、リーゼロッテは夢中になっていた自分にふと気がついた。

 何とはなしに後ろを振り返ると、無表情で自分を見つめているジークヴァルトがそばにいた。その後方には、店主のおじさんがやはりニコニコ顔で立っている。

「あ……」

 自分の世界に(ひた)り過ぎてしまった。待たせているのにゆっくりしすぎだとリーゼロッテは一瞬で(あせ)った表情になる。しかもまだ店のほんの一部しか見ていない。

 そんなリーゼロッテの様子に気づいたのか、ジークヴァルトは「いい。気にすることはない」とそっけなく口にした。戸惑ったもののリーゼロッテは笑顔を返し、そのまま棚に目を戻してオルゴールの一帯から先に進んだ。

(とりあえず一通り見て回ろう)

 リーゼロッテが進むとジークヴァルトもその後をついて来る。何かに目を止めて立ち止まると、やはりジークヴァルトも同様に立ち止まった。

(プレッシャー、ハンパないんですけど……!)

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