氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 背後に意識がいって、先ほどのように没頭(ぼっとう)できそうにない。一度気になりだすと、なかなか意識の外には追い出すことは難しかった。

 しかし、羽ペンや文鎮(ぶんちん)などの文具が置かれた棚の前まで来ると、リーゼロッテは思わずそのコーナーに目を奪われた。目の前に並べられているのは、インク(つぼ)(そろ)いの便せん・封筒など、統一感のある可愛いステーショナリーグッズだ。

(これ、一つ買うと全部ほしくなるヤツだわ)

 シリーズ化された品のよい文具たちが、自分の文机(ふづくえ)で並ぶさまを想像すると、リーゼロッテは瞳を閉じてほおとため息をついた。

「どうした?」
「あ、いえ、こちらの品々を使ってお手紙を書いたら素敵だなと思いまして……」
「ならば全て買おう」
「ですが、すでに持っている物ばかりで……今使っている物もとても気に入っているのです……」

 ダーミッシュ家の自室で愛用している文具は、義父(ちち)のフーゴから贈られたものだ。長年大事に使っている物なので、愛着も湧いている。

「だったらフーゲンベルク家の部屋で使えばいいだろう」
「まあ! よろしいのですか?」

 その考えは正直なかった。あの部屋は毎回当然のように使わせてもらっているが、所詮(しょせん)はよそ様のお宅である。自分の好き勝手にしていいものではないだろうと、私物も増やさずなるべく汚さないようにと何かと気を使って過ごしていたのだ。

「では、店主。こちらを揃いで。届けるのは公爵家に頼む」
「はい、かしこまりました」

 目の前のやり取りに少々めまいがしてくる。まさか「ここからここまで買い」を自分がする日が来ようとは。まあもっとも、支払うのはジークヴァルトなのだが。

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