氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「まだ時間はある」
 そう言ってジークヴァルトがじっと見下ろしてくる。

「はい、他の品も見てまいりますね」

 もう買い物は済ませたのだから、あとはお得意のウィンドウショッピングだ。肩の荷が下りたリーゼロッテは足取りも軽く店内を移動した。

「あの、ヴァルト様」

 相変わらず後をついてくるジークヴァルトを振り返ると、リーゼロッテは小首をかしげた。

「わたくしにずっとついているのは退屈(たいくつ)でございましょう? ヴァルト様はおかけになってお休みしていただいてよろしいですわ」
「いや、そんなことはない。オレのことは気にするな」
「え……?」

 ジークヴァルトは都合(つごう)が悪いと顔を()らす(くせ)がある。今、真っ直ぐ見つめ返すジークヴァルトは嘘を言っているようではなかった。

(普通、男の人って、女の長い買い物に付き合わされるのは嫌がるものなのに……)

 気にするなと言われても気になってしまうのが人の(さが)だが、こういったときジークヴァルトは(がん)として引きはしない。リーゼロッテは厚意(こうい)に甘えてショッピングを再開することにした。

 人形のコーナーにさしかかると、大きなクマの縫いぐるみが目に入った。クマの両脇に手を差し込んで持ち上げてみる。ぷらんと垂れ下がった両足を合わせると、リーゼロッテの膝下から胸元くらいまである大きさだ。

 これをぎゅっとして一緒に寝てみたい。そんな欲望がふつふつと湧き上がる。しかし、自分はすでに成人した身だ。さすがにそれは痛すぎる行為だろう。
 無言でクマを棚に元通りに座らせると、リーゼロッテは次の棚へと移動しようとした。

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