氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「それはいらないのか?」
 背後霊のようにずっと黙ってついて回っていたジークヴァルトが、突然口を開いた。

「え? いいえ、わたくしももう成人いたしましたし、さすがに縫いぐるみがほしいなどとは、恥ずかしくて言えませんわ」

 確かにクマのつぶらな瞳に後ろ髪はひかれるが、「ほらあの子、いい年してあの店でこんな大きな縫いぐるみを買ってもらったんですって」などと言われては淑女として立つ瀬がない。

 ジークヴァルトは自分を子供だと思っているのだから、そんなことを平気で言い出すのだろう。この微妙な乙女心が理解できないのも仕方ないと何気ないふりを装って、リーゼロッテは別の棚へと移動した。

(あ、これ可愛い……)

 目に留まったブレスレットを手に取る。ラインストーンが飾られた華奢(きゃしゃ)なものだ。

「あの、ヴァルト様……もしよろしければ、こちらを(そろ)いで買っていただいてもよろしいですか? ……その、エラとお揃いでつけたくて」

 ブレスレットの石は赤、青、白、緑、ピンクなどがある。一点ものでない分だけそれほど高級なものではないのだろう。大好きなエラと普段使いでお揃いで身につけられたと、リーゼロッテは頬を染めながらジークヴァルトを見上げた。

 ジークヴァルトは少し驚いた表情でリーゼロッテを見つめていた。といっても親しい者にしかわからないような表情の変化だったのだが。

「あ……先ほど欲しい物を決めたのに、厚かましすぎましたわね」
「いや、いい。問題ない」

 少し慌てたように言って、ジークヴァルトは店主に目配せした。何しろ初めてリーゼロッテから本当に欲しいと思う物をジークヴァルトにねだってきたのだ。それが他人とのペアのアクセサリーだとしても。エッカルトがこの場にいたらむせび泣いていたかもしれない。

 リーゼロッテが手に持つブレスレットを店主が受け取って包もうとする。

「あ、こちらは今日持ち帰ってもかまいませんか?」

 早くエラとお揃いで身につけたい。荷物になるわけでもないしとリーゼロッテはジークヴァルトを伺い見た。頷くジークヴァルトを確認すると、店主は包んだブレスレットを一度ジークヴァルトに手渡した。それをジークヴァルトから受け取ったリーゼロッテは、自然とはにかんだ笑顔を向けた。

「ありがとうございます、ジークヴァルト様」
「……ああ」

 じっと見つめてくるジークヴァルトは、なんだかいつもと違うような気がする。

(やっぱりずうずうしかったかしら……?)

 一抹(いちまつ)の不安を残しつつ、リーゼロッテの始めてのお買い物は無事に終了したのであった。

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