氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
     ◇
 次に予約している店があると言われて連れてこられたのは、高級サロンのようなカフェだった。こちらは店舗の貸し切りではなく、上階にある一室を予約したようだ。

 少しほっとしてリーゼロッテは、案内係について店内を移動する。下の階にも客席があり、こちらは観葉植物やちょっとしたついたてで席と席が分けられていた。互いの会話が聞こえないような距離を保つためか、広い店内にはそれほど席数はないようだ。

 通りすがりにおしゃべりに(きょう)じていたご夫人たちの視線が刺さる。はっきりとは聞こえはしないがさわさわと(ささや)き合う声は、どうやらジークヴァルトと自分について話題にしているようだ。やましいことをしているわけではないが、何を言われているのだろうかとなんだか落ち着かない気分になってしまう。

 しかし、リーゼロッテはジークヴァルトに恥はかかせてはいけないと、細心の注意を払って階段を一段一段踏みしめることに集中する。

 上階の重厚な扉の部屋に案内されると、先に到着していたらしいエラとエーミールの姿が見えた。何か会話をしていたふたりは、リーゼロッテたちの姿を認めると座っていた椅子から立ち上がった。

 エラの顔を見て、リーゼロッテはなんだかほっとした気分になる。エラも大事な主人の無事を確認すると同様の顔をした。見つめ合って微笑みあうふたりをよそに、エーミールはさほど心配していた様子もなく「大事はありませんでしたか?」とジークヴァルトに声をかけた。

「ああ、問題ない」

 店員に促されて豪華なソファに腰かける際、エラの頭に輝く髪飾りが目に入った。見慣れないそれを認めて、エラとエーミールを交互にみやる。その視線に気づいてエラは頬を染めたが、エーミールはいつもの不遜(ふそん)な表情のままだ。
 今はつっこんで聞いてほしくなさそうだ。エラにはあとでじっくり話を聞こうと、リーゼロッテは思わずにんまりとしてしまった。

「随分と楽しまれたようですね」

 その様子を勘違いしたのか、エーミールがこころなしかうれしそうに言った。それでも鼻で(わら)っているように見えるのは、もうそれが彼の(くせ)なのだろう。そう思ってリーゼロッテはエーミールに曖昧(あいまい)な笑みを返した。

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