氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
     ◇
「今日はおもしろいお客がやって来たわね。あの騎士はエーミール・グレーデンでしょう? あの堅物(かたぶつ)で有名な男が女性連れでこんなところにやってくるなんて。本当に驚きだわ」

 鈴を転がすような声で笑う貴族街の聖女を前に、付き人の女性はかぶっていたフードを背中に落とした。

「あの赤毛のご令嬢はどなたでしょうか。あまりお見かけしない方でしたね」
「そうね……。でも、彼女、無知なる者だったわ。託宣は受けてはいないようだけれど、これだけ水鏡(みずかがみ)が反応するなんて……。ねえ、アルベルト。あなたは彼女が誰だか知っているのではなくて?」

 背後の暗がりに声をかけると、奥に置かれたついたての陰から気配なくひとりの男が姿を現した。

「いえ。わたしも存じ上げませんね。()()()()いはそれなりに教育を受けたご令嬢のようでしたが……。赤毛のご令嬢は男爵家になら何人かいたと記憶しておりますので、そのうちのどなたかではないでしょうか」

 この国の貴族は公爵を筆頭に、侯爵、伯爵、子爵、男爵、準男爵、その下に貴族ではないが騎士(ナイト)の地位がある。この国では領地を持つのは子爵位以上と決められていて、男爵位以下はそのほとんどが一代限りで王から(たまわ)るものだ。

 ディートリヒ王は国へ貢献(こうけん)した者に、わりと気前よく爵位を与えるため、歴史上でいちばん男爵が多い王となっていた。

「そう。アルベルトも知らないなんて、お父様も男爵を増やしすぎなのではないかしら?」
「ディートリヒ王は賢王(けんおう)であらせられます。クリスティーナ様……貴女(あなた)様こそ、このような場所で(まじな)()真似事(まねごと)など、王女としての自覚が足りないのではありませんか?」
「その名はここでは出さないでちょうだい。それに(まじな)いではないわ、宿世(すくせ)の占いよ」

 少し(わずら)わしそうに身に着けていたヴェールをはぎ取ると、その下に隠されていたプラチナブロンドの髪がさらりとこぼれた。付き人の女性は何も言わずに、ヴェールを取った占い師、クリスティーナ王女の髪を手櫛(てぐし)で整える。

「ありがとう、ヘッダ」

 王女は付き人の女性に微笑むと、その女性、ヘッダにヴェールを手渡した。

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