氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 代々、公爵家の傍系として名を連ねてきたカーク家は、邪魔物(じゃまもの)(あつか)いされている不動のカークの存在のせいで、昔から周りの者に(かろ)んじられてきた。自分だけなら我慢も効くが、大事な家族がそのせいで(つら)い目に合うのは、ヨハンには耐えがたいことだった。

 ヨハンには年の離れた妹がいる。あと数年で社交界デビューをする可愛い妹は、そんな状況では良い縁談を望めるとは思えない。カーク家の宿命だと半ば諦めていたヨハンだったが、リーゼロッテが公爵家にやってきてから、状況が一変したのだ。

「あの……ヨハン様、お顔を上げてくださいませ。わたくしにそのように礼を取る必要はありませんわ」

 リーゼロッテは伯爵令嬢でヨハンは子爵家の人間なので、貴族階級的にヨハンが下である。礼を取るのはおかしくはない。だが、今ヨハンがとっているのは、王族に対して示すような騎士の中でも最大級の礼を尽くすものだった。

「とんでもありません! わたしはジークヴァルト様とリーゼロッテ様に、生涯、命を()けてお仕えすると誓ったのです!」

 本当に命を捧げそうな勢いに、リーゼロッテは困惑した。公爵家当主であるジークヴァルトならともかく、まだ婚約者の身の自分にそこまでする意味が分からない。

「ヨハン様はリーゼロッテ様に感謝されているのですよ」
「感謝とおっしゃられましても、わたくしヨハン様にお会いするのは初めてで……いえ、そういえば王城からダーミッシュ領に戻るときに、もしかしたらヨハン様はいらっしゃった……?」

 王城の馬車留めで、初めてジークヴァルトの姉・アデライーデに会った時のことを思い出す。その時、一緒にいた騎士の中に、この大柄なヨハンがいたような気がする。

「ご記憶頂けて光栄です! 確かにあの時わたしは、リーゼロッテ様の護衛の任をジークヴァルト様から受けておりました!」
「まあ、そうだったのですね。あの時は領地まで護衛してくださってありがとうございました。とても心強かったですわ。あの……とにかく、もうお立ちになって……?」

 いつまでも礼を取られてはいては落ち着かない。エマニュエルにも促されて、ヨハンはようやく立ち上がった。

 隣に立っているカークと並ぶと、なかなかの威圧感である。ふたりは顔立ちというより骨格がそっくりで、やはり血のつながりがあるのだと納得する。だが、無精(ぶしょう)ひげを生やしたカークと違って、ヨハンは貴族らしくござっぱりした清潔感ある出で立ちをしていた。

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