氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「エマの言うように、わたしは、いえ、カーク子爵家は、リーゼロッテ様に救っていただきました! 感謝しても、感謝しても、感謝しても、したりません!!」

 前のめりに熱く言われて、リーゼロッテは引き気味になった。そこは淑女として顔には出さなかったが、戸惑いは隠せない。困ったように淑女の笑みを浮かべながら、リーゼロッテは可愛らしく小首をかしげた。

「ヨハン様……申し訳ありませんが、わたくしそのような大それたことをした覚えはありませんわ」

「いいえ! カーク子爵家は長年フーゲンベルク家に仕えてきましたが、この不動のカークのせいで長い間一族(いちぞく)郎党(ろうとう)から(うと)まれておりました。しかし!! 何をやってもうんともすんとも反応しなかった我が先祖を、リーゼロッテ様はものの数秒で動かされ! しかも!! リーゼロッテ様の護衛という栄誉(えいよ)ある任まで与えてくださった!!! これを! これを! 感謝せずにどうせよとおっしゃるのですか!!!!!」

 ドン引きしているリーゼロッテを置き去りにしたまま、ヨハンはぐいぐいにまくしたてた。実際に、公爵家の屋敷内をカークを連れて歩くリーゼロッテの効果は、ものすごいものがあったのだ。

 ヨハンは幼少の頃から、カークの末裔(まつえい)と言う理由で、公爵家の家人たちから白い目で見られてきた。
 とばっちりもいいところなのだが、いかんせんカークとヨハンは遠目に見た感じがそっくりすぎた。いかにヨハンが清潔そうな身なりをしていようとも、武骨で小汚く見える邪魔なカークと同等の扱いを、ヨハンは長い間うけ続けてきたのだ。

 しかしここにきて、使用人たちのカークやヨハンを見る目が変わってきていた。リーゼロッテの護衛として働くカークを目にした使用人たちが、こぞってそれを褒めそやしているとの話も耳にする。

 以前は生ごみをみるかのような視線を向けられたものだったが、今では尊敬交じりのものとなってきているのだから、ヨハンにしてみれば天地がひっくり返ったような心持ちである。

 ヨハンは力ある者だが、その力量(りきりょう)はエマニュエル以下だ。異形の者を視る能力も低いため、不動のカークの姿をぼんやりとしか認識できない。

 しかしヨハンは、ソレが自分にそっくりだと長いこと異口(いく)同音(どうおん)に言われ続け、皆の認識の中では、ヨハン = 不動のカークとなっていたくらいだ。

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