氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 ヘッダは慣れた手つきで王女にヴェールをかぶせて整えると、自らもフードを目深(まぶか)にかぶりなおして入口へと急ぎ向かった。いつものように訪れた貴族を迎え入れる。

「ようこそおいでくださいました、貴族の旦那様」

 長身の青年とハニーブロンドの令嬢が目に入る。ヘッダは見知った黒髪の青年貴族の顔を認めると、はっと息をのんだ。目深にかぶったフードの頭をさらにうつむかせ、恐る恐る隣に立つ令嬢へと目を向ける。令嬢は緑の瞳を(またた)かせて、物珍しそうにあたりを見回している。

「……占いをご希望されるのは、そちらのお嬢様でよろしいですか?」

 平静を装ったつもりのヘッダの声は、思った以上に低く、そして震えていた。許されることなら、今すぐにでもあの()まわしき令嬢を殺してしまいたい。そんな思いがこみ上げてきて、ヘッダはその血の気の失せた唇をわななかせた。

「……ここは本当に占いの店なのか?」

 無表情の青年貴族が声低く問う。令嬢をさりげなく自らの近くに引き寄せたのは、ヘッダの殺気に気づいたからだろう。令嬢は何も疑うことない無垢(むく)な瞳で、その腕の中に収まっている。

「ええ、ここは来た者の宿世(すくせ)を占う場所……」

 不意に後ろから涼やかな声がかかる。ヴェールで顔を隠したクリスティーナが奥の部屋から姿を現した。ゆったりとした足取りでヘッダをかばうように前に立つ。
 その姿を目にした青年貴族がその身をこわばらせるのが見えた。

「ようこそ、導かれし者のみがたどり着く占いの館へ。早速、あなたから占いましょうか? 貴族の旦那様」

 ゆっくりとした口調で問う。はっと目を見開いた青年貴族は一度口を開きかけ、そのあとすぐにぐっと唇を引き結んだ。

「……いえ、わたしは遠慮させていただきます」
「あら、そう。まあ、あなたには必要のないことでしょうね」

 彼の態度から察するに、自分の正体にはもう気づいているのだろう。そして、王女である自分が、なぜここでこのようなことをしているのかも。

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