氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 くすくすと笑うクリスティーナを守るようにヘッダが半歩足を踏み出すと、クリスティーナはそれを片手でそっと制した。

「いいのよ、今は控えなさい。……大丈夫、まだ時は満ちてはいないわ。とりあえずあなたは今すぐ店をクローズにしてきて。これ以上、誰も入らぬように」
「……仰せのままに」

 控えめに頭を下げて、ヘッダは客人の脇をすり抜けるように入口へと向かった。決して令嬢と目を合わさぬよう不自然なほどに顔をそむけていく。そうでもしないと、自分を抑える自信がヘッダにはなかった。

「では、そちらのお嬢様は奥へどうぞ。ご心配でしょうから、旦那様もご一緒に」

 そう告げるとクリスティーナはひとり奥の部屋へと戻り、元いた占いの席へと優雅に腰かけた。しばらくすると青年に大事にエスコートされながら、蜂蜜色の髪をした令嬢が部屋の中にと歩を進めてきた。好奇心に満ちた瞳で部屋の中を見回している。

(――リーゼロッテ・ラウエンシュタイン。彼女こそが……)

 その姿は、彼女の母であるマルグリットに瓜二(うりふた)つだ。いや、マルグリットの(まと)う力にも圧倒されたが、目の前にいる令嬢の清廉(せいれん)な緑の力は、クリスティーナの目にはより(まばゆ)く映った。

「さあ、こちらにおかけになって?」

 テーブルをはさんだ向かいの椅子を(すす)めると、リーゼロッテは戸惑ったように自分の手を離そうとしない(となり)の青年、ジークヴァルトの顔を見上げた。ジークヴァルトはクリスティーナの背後の闇に視線を向け、かすかに眉間にしわを寄せている。

(アルベルトの存在にも気づいているようね)

 王太子である弟の護衛を務める身だ。そのくらいのことは訳はないのだろう。しかし、アルベルトに殺気がないのを察したのか、ジークヴァルトはリーゼロッテの背をそっと押した。

 彼はそのまま部屋の入口へと身を寄せた。アルベルトよりもヘッダの動向の方が気になるのだろう。何しろリーゼロッテに向けられた彼女の殺気は、まぎれもなく本物だったのだから。

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