氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 リーゼロッテが静かに目の前の椅子にゆっくりと腰を掛ける。王女である自分ですら見とれるほどの美しい立ち居振る舞いだ。

 リーゼロッテは大きな緑の瞳を瞬かせ、興味深げにテーブルの中央に乗せられた水晶を覗き込んでいる。つるりとした球面にリーゼロッテの顔が上下逆に映しだされ、リーゼロッテはそれを不思議そうにじっと見つめた。

水鏡(みずかがみ)が彼女に反応している……)

 水晶に見えるその球は、王城の奥深くに隠された「託宣の間」と呼ばれる部屋に置かれる水鏡のほんの一部だ。

 大きな(はい)に枯れることなく滾々(こんこん)と湧き出る水鏡から、ある日唐突(とうとつ)に跳ね出た水が王女の手のひらに落ちてきた。液体だった水鏡はクリスティーナの手のひらで丸い(かたまり)となり、それからというものクリスティーナはその水鏡を通して不思議なものが視えるようになった。

 それまでもクリスティーナは、人の未来と呼べるものを不意に視てしまうことが時折あった。しかし、それはちょっとした出来事で変化をするような(おぼろ)げな未来で、予知と言えるほどのものではなかった。しかし、この水鏡を手にしてから、意識を集中すれば、その者の未来をより鮮明に視ることができるようになったのだ。

 だがそれは、誰の未来でもと言うわけではない。託宣を受けた者の未来は常に不鮮明で、まるで(はば)まれているかのように見渡せない。

 その水鏡がリーゼロッテを前に、かつてない反応を見せている。球体の中で水がさざめき、やがて目に見えるほどの(うず)が内部で巻きおこる。

「あなたの知りたいことを占ってあげたいけれど……それは無理なようね」

 水鏡が(ほの)かに白光し始める。こうなったらクリスティーナにはもうそれを止めることはできはしない。本来、水鏡とは占いなどではなく、龍がその者に課した宿命を、ただそこに映しだすための媒体(ばいたい)でしかないのだから。

 クリスティーナは両手を水鏡の球にかざし、その上でゆっくりと交差させていく。リーゼロッテは()きつけられたように、その指の動きをじっと目で追った。

 光がヴェールをはためかせ、やがてクリスティーナ自身が光を(まと)い始める。託宣が再現されるその前兆(ぜんちょう)だ。

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