氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「リーゼロッテ・メア・ラウエンシュタイン……(なんじ)、星読みの血を()ぎし者」

 クリスティーナの口から操られるように声が発せられる。(うつ)ろな瞳は目の前のリーゼロッテを映しているようで映していない。

断鎖(だんさ)を背負う龍の(たて)(つがい)……彼方(かなた)より選ばれしその御魂(みたま)……()ちた者は()がれ……すべての(ゆが)みを(ただ)す聖なる泉……やがては龍の(ともしび)となり……もしくはその終焉(しゅうえん)を告げる者……」

 つらつらと紡がれる言葉に感情は(こも)らない。何者かに憑依(ひょうい)されているようなその様は、神ががったものを感じさせ、リーゼロッテは(まばた)きすることも忘れて、目の前の貴族街の聖女の姿をただ見つめていた。

慈悲(じひ)(ゆる)し、断罪、破滅……(なんじ)がゆく道はすべてが正しく、すべてはそれに従い受け入れるのみ……」

 放たれる光が最高潮に達したその瞬間、水鏡の表面に亀裂が走り大きな音を立てて弾け飛んだ。それと同時に渦巻くように中の水が天井高く立ち昇ぼる。その量は、その中に収められていた容積をはるかに超えていた。

 咄嗟(とっさ)に目をつぶりリーゼロッテが短い悲鳴を上げたときには、すでにジークヴァルトの腕の中だった。飛沫(ひまつ)が降り注ぐ瞬間を覚悟するも、一向にその時は訪れない。恐る恐る瞳を開けると、宙に浮かんだ白く光る液体が(きり)のようにふわりと広がり、そのまま魔法のようにかき消えた。

 テーブルに目をやるとそこにあったはずの水晶が跡形(あとかた)もなく消え失せている。リーゼロッテは無意識にジークヴァルトの胸に体を寄せ、向かいへと視線をやった。
 そこにはいつの間にかひとりの若い男がいて、気を失ったようにぐったりしている貴族街の聖女を支えるように抱きしめていた。まるでジークヴァルトと自分を鏡に映したかのような体勢だ。

「お怪我はございませんか?」

 その男が静かな声音で口を開いた。どうやらこちらに話しかけたようだ。「こちらは問題ない」と、むしろ向かいの聖女を気遣うような視線をジークヴァルトは送った。

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