氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「……ジークヴァルト様?」
「起きたか。オレが抱くからそのままでいい」

 その言葉にぼんやりしていた意識が一気に覚醒(かくせい)した。膝裏(ひざうら)に差し込まれそうになった腕を、咄嗟(とっさ)に掴んで止めさせる。

「いえ、起きましたので、自分で行きますわ」

 その言葉にジークヴァルトは無言で視線を返してきた。青い瞳とじっと見つめ合う。納得していなさそうな表情を前に、リーゼロッテは寝起きの頭で思考をフル回転で巡らせた。

「あ、あの、ジークヴァルト様。今日はこのまま公爵家にお戻りになられるのですよね。でしたら、わたくしを中まで送らずとも、このまま馬車に乗っていていただいてよろしいですわ」
「必要ない。ダーミッシュ伯爵夫人に挨拶せずに帰るわけにはいかないだろう」

 そう言ってジークヴァルトは再びリーゼロッテに手を伸ばしてきた。

「で、でしたら! あの、その、あーんを……今日の分のあーんを今ここでしていただきたいのです!」

 咄嗟に口走った言葉に、リーゼロッテはその頬を赤らめた。しかし、言った後に妙案だったと自ら思った。ジークヴァルトの事だ。このままタウンハウスのエントランスに抱えられて行ったら、その後にクリスタたちが見ている前で、臆面(おくめん)もなくあーんをかましてくるのは目に見えている。

「お願いです、ヴァルト様、あーんを今ここで」

 ふたりきりの馬車の中、ジークヴァルトの腕を引き寄せる。寝起きの潤んだ瞳でジークヴァルトの顔を間近から覗き込んだ。

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