氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 ブラル伯爵と令嬢が、王族の前で優雅に礼をとっている。貴族によっては王族と会話を交わす最初で最後の機会となる。王に何事か話しかけられ、令嬢は臆せず言葉を返しているようだ。

「さすが伯爵家のご令嬢ね。王の御前(おんまえ)だと言うのに、とても初舞台とは思えない堂々たる振るまいだわ」

「まあ、ご覧になって。王太子殿下は相変わらずのご様子のようよ」
「さすがは孤高の王太子でいらっしゃるわ。どんなに可愛らしいご令嬢が熱い視線を送っても、にこりともなさらないもの」

 ディートリヒ王とイジドーラ王妃が並んで座る斜め後ろに、ハインリヒ王子がしかめ面をしたまま立っている。宙を(にら)んで微動(びどう)だにせず、笑顔を返すどころかデビュタントたちに目を向けることすらしない。

「王太子殿下は結婚相手をお選びなる気はおありなのかしら? 噂通りに女性にご興味がない……なんてことがないとよろしいのですけれど」
「フーゲンベルク公爵様が殿下のご寵愛(ちょうあい)を受けているというのは、あながちただの噂ではないのかも」
「あら、でも、公爵様は婚約者がいらっしゃるって話よ。先日、貴族街にお相手のご令嬢とお姿を現したと大騒ぎになっているもの。なんでもとても大事そうにエスコートなさっていたとか」
「それって本当の話なの? 王妃殿下のお茶会の噂だって眉唾物(まゆつばもの)だわ。だってあの公爵様よ」

 広い会場の一角に視線を送る。そこにはぐるりと人だかりに囲まれている長身で黒髪の青年貴族がいた。
 無表情だが眉間にしわを寄せるその様は、とても社交に熱心とは言い難い。その雰囲気に臆しているのか、公爵を取り巻く者たちも、一定の距離を開けて恐る恐る話しかけているようだ。

「そうなのよね。あのジークヴァルト・フーゲンベルク様が、女性をエスコートする姿なんて想像もつかないわ」
「でも驚くことに、お相手はダーミッシュ伯爵のご令嬢だと言うのよ。噂では王妃様のお茶会で、公爵様自らが婚約者だと宣言されたとか」
「まあ! それは本当なの? あの深窓(しんそう)妖精姫(ようせいひめ)が……?」

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